回向:自力回向と他力回向

目次

はじめに

仏教の教えを学ぶ中で、「回向(えこう)」という言葉に出会うことがあるでしょう。
一般には、回向とは「自らの修行や善行の功徳を、他の人や自分の来世などに振り向ける」意味とされますが、浄土真宗や浄土教の流れでは、「自力回向」「他力回向」という対比が強調されます。
そこで本記事では、回向が仏教でどのように理解されてきたかを踏まえつつ、浄土真宗の文脈で語られる自力回向と他力回向が何を意味するのかを解説します。

1. 回向(えこう)とは?

まず、「回向」は仏教用語として、「功徳を回し向ける」ことを指します。
具体的には、ある人が善行や修行を行ったとき、その行為によって得た功徳(くどく)特定の目的他者に振り向けることを「回向する」と言います。

  • 例:
    • 「この読経の功徳を、亡き故人の往生のために回向します」
    • 「自分が得た善行を、世界平和のために回向します」
  • 功徳の“振り分け”
    • 「自分のためだけ」にとどまらず、他者や広く衆生にも善の影響が及ぶように、と祈る行為が回向の本質。

2. 自力回向とは?

「自力回向」は、自分の修行や善行によって得た功徳を、自分や他者のために意図的に回向することを指します。
一般的な仏教の世界観では、「努力によって功徳を積む」自力的な要素が重要とされます。

  • 自分の力で功徳を積む
    • 六波羅蜜(布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)をはじめとする修行や善行が中心。
  • 得られた功徳を他者に回す
    • 「自分の力で積んだ善行の成果を、誰々に捧げる」という発想が基本。

3. 他力回向とは?

一方、「他力回向」は、阿弥陀仏の本願力に基づいて、仏の方から衆生へ功徳を振り向ける行為を指します。
これは、浄土真宗をはじめとする浄土教独特の考え方であり、私たち凡夫の力ではなく、仏の力によって救いが成り立つという発想です。

  • 阿弥陀仏の本願力
    • 阿弥陀仏が立てた四十八願、特に第十八願によって、**すべての衆生**に救いの功徳が回向される。
  • 「南無阿弥陀仏」を称える意味
    • 念仏は、私が仏に功徳を捧げるのではなく、仏が私に功徳を与えてくださっていることに気づく行為でもある。

4. 浄土真宗での回向観:廻向と還相回向

浄土真宗では、回向をさらに詳しく分けて「往相の廻向(おうそうのえこう)」「還相の廻向(げんそうのえこう)」という概念で説明します。

  • 往相の廻向
    • 阿弥陀仏の本願力によって、私たちが浄土に往生する(往相)の道が開かれる。
      これが、他力回向の中心的なイメージ。
  • 還相の廻向
    • 往生した菩薩や仏が、**再びこの世界に戻ってきて衆生を救う**はたらきをする。
      阿弥陀仏のはたらきに応じて、**利他の行い**が自然に行われる姿を示す。

5. まとめ

回向とは、もともと「功徳を振り向ける」ことを指し、自力回向では「自分が積んだ善行を他者に捧げる」発想が中心にあります。
一方、他力回向(特に浄土真宗では)では、**阿弥陀仏の方から**私たちに功徳を回向してくださるという視点が強調され、「私たちが仏に捧げる」のではなく、**「仏から与えられる」**という構図がポイントです。
こうして、回向の理解が**自力から他力へ**と転ずることで、念仏を称える行為も**報恩感謝**の形を取り、他者への利他行も**自然に生じる**と考えられます。

参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次