遺言書を作成していても、そのままでは家族や相続人がスムーズに内容を確認できるとは限りません。特に、自筆証書遺言の場合、「検認」や「開封」といった法律上の手続きが必要になることがあります。
これらの手続きは、遺言書の偽造や改ざんを防ぎ、法的な正当性を確保するために設けられている仕組みです。本記事では、検認と開封がどのようなものか、そして浄土真宗(他力本願)から見た相続手続きの考え方を紹介します。
1. 検認(けんにん)とは?
「検認」は、家庭裁判所が「遺言書の形状や内容を確認し、公正を保つ」ために行う手続きを指します。特に、自筆証書遺言や秘密証書遺言など、法務局に保管されていない遺言書を発見した場合に、下記のような流れで行われます:
- 家庭裁判所への申立: 遺言書を発見した相続人や利害関係人が検認を申立てる
- 裁判所での開封: まだ封印されている遺言書は、検認の場で開封される
- 現状確認: 日付や署名、内容の行数、訂正の有無など、遺言書の外形を確認・記録
- 検認調書: 確認結果を調書にまとめ、裁判所が保管
検認の趣旨は、あくまで「遺言書の現状を明らかにする」こと。遺言の有効無効や内容の合法性を最終的に判断するわけではない点に注意が必要です。
検認が必要な場合
- 自筆証書遺言(法務局保管制度を利用していないもの)
- 秘密証書遺言(公証役場で一定の手続きは行うが、最終的な開封は検認が必要)
- 被相続人が自宅や貸金庫に封印された遺言書を残していた
2. 開封(かいふう)とは?
「開封」は、その名の通り、封印された遺言書を物理的に開ける行為です。
ただし、自筆証書遺言を本人が封印して残している場合、勝手に開封すると過料(罰金に近い処分)が科される可能性があるため、注意が必要です。
一般的には、家庭裁判所での検認手続きの場で開封が行われます(公正証書遺言は検認不要なため、開封の問題がない)。
- 私的に開封: 法律上、勝手に開封すると5万円以下の過料の対象
- 公的な開封: 検認手続きで、裁判所が立ち会う形で開封する
封印されていない遺言書に関しては、単純に「開封」という概念はありませんが、検認手続きそのものは必要になる場合があります。
3. 法務局保管制度で検認が不要に
2020年(令和2年)から始まった自筆証書遺言書保管制度を利用すると、法務局で遺言書を預けるため、封印や検認の手続きが不要になります。
つまり、勝手に開封して罰則を受けるリスクもなく、遺言書が紛失するリスクも軽減されるメリットが大きいです。
- 対象: 自筆証書遺言
- 保管場所: 全国の対応法務局
- 費用: 1通あたり3,900円(令和5年現在)
4. 浄土真宗から見る検認と開封
浄土真宗の「他力本願」では、人の往生は阿弥陀如来の本願によって決まるため、どのように遺言を開封するかが成仏を左右するわけではありません。
しかし、遺族や相続人同士がトラブルなく円満に遺言を確認することは、家族の和を保つうえで重要です。検認や開封の手続きを正しく踏むことで、「不正がない」と相続人全員が納得し、故人の意思をスムーズに活かすことができるでしょう。
5. トラブルを防ぐためのポイント
検認や開封においてトラブルを避けるには、次のような点に注意すると良いです:
- 1. 勝手に開封しない
– 封印された遺言書が見つかったら、そのままにして家庭裁判所への申立を検討 - 2. 全相続人を交えて
– 検認の場で、相続人全員に案内し、みんなが同席または把握している状況を作る - 3. 法務局保管制度の検討
– 今後の遺言書作成時に、封印や検認の煩雑さを避けたいなら法務局保管を利用 - 4. 公正証書遺言にする
– 費用はかかるが、公正証書なら検認不要で安心
まとめ:適切な手続きで遺言の正当性を守る
- 検認: 裁判所が自筆証書遺言などを確認し、改ざん防止を図る手続き。
法務局保管の遺言書や公正証書遺言は不要。 - 開封: 封印された遺言書を勝手に開けるのはNG。
検認の場で開封し、全相続人が立ち会って内容を確認。 - 浄土真宗の視点: 往生を左右するわけではないが、家族の和や故人の想いを尊重するため、正しい手続きが大切。
「検認」と「開封」は、自筆証書遺言などを安全に活かすための法的手続きです。
封印をそのままにして裁判所で開封することで、公正さが保たれ、改ざんや見落としが防げます。
浄土真宗の「他力本願」に立脚すれば、法的手続きを正しく踏むことは故人をみんなで守る姿勢とも言えます。
遺言作成時には、公正証書や法務局保管制度を検討しつつ、もし自筆証書を選ぶなら、検認や開封の流れを相続人全員が理解しておくと良いでしょう。
参考文献
- 民法(相続・遺言に関する条文)
- 法務局「自筆証書遺言書保管制度」情報
- 『教行信証』 親鸞 聖人 著
- 『歎異抄』 唯円 著
- 相続・遺言に関する弁護士・司法書士の実用書
- 浄土真宗本願寺派・真宗大谷派 公式情報