真宗特有の焼香マナーの解説(本願寺派・大谷派の違いを中心に)

目次

はじめに

 浄土真宗における焼香は、他宗と比べて「香を頭上にいただかない」などの特有の作法があることで知られています。しかし、ひとくちに浄土真宗といっても、本願寺派(西本願寺)真宗大谷派(東本願寺)では、焼香の具体的な動作や所作に違いが見られます。特に「焼香の開始時に合掌をするかどうか」など、細部の作法が異なります。本記事では、両派でどのような違いがあるのかをなるべく整理し、実際の場で恥ずかしい思いをしないよう、あるいは正しいマナーを伝承できるよう、わかりやすくまとめてみました。なお、寺院や地域によっては微妙に異なる指導がある場合もありますので、最終的には現地での住職や係員の案内に従うのが基本です。

1. 浄土真宗における焼香の意義

 浄土真宗全体としては、焼香は単なる「作法」ではなく、阿弥陀仏に香を捧げることで感謝と信を表す行為です。多くの宗派の焼香が「自力的修行」の要素を帯びるのに対し、真宗の焼香は「他力を意識し、仏の働きを思い起こす」という点に特徴があります。具体的には、以下のような意味があります:

  • **香を捧げる**:浄土(阿弥陀仏の世界)の清浄さを象徴し、自身の煩悩を清める象徴。
  • **合掌・礼拝**:阿弥陀如来へ帰命する気持ちの表現(ただし、タイミングが宗派で異なる)。

 このように、「他力本願」の教えに根ざした焼香観であることは、本願寺派真宗大谷派を問わず共通の理念です。

2. 本願寺派(西本願寺)の焼香作法

 本願寺派(西本願寺)の焼香作法は、地域や寺院によって微差はあるものの、以下が一般的とされています。ここでの大きなポイントは、「焼香の前に合掌しない」ことです(「焼香に入る直前の合掌は行わない」)。

  1. 焼香台の前へ進む:順番が来たら焼香台の前に立ち、軽く会釈します(深い礼ではなく浅いお辞儀程度)。
  2. 香をつまむ:香炉の抹香を、右手の親指と人差し指・中指で少量つまみます。このとき頭上まではいただきません
  3. 香を炉に落とす:つまんだ抹香をそのまま香炉の中に静かに落とします。回数は一般的には1回(地域や寺院で2回とするところもある)。
  4. 合掌:焼香を終えた後に合掌し、そこで少しの間、阿弥陀如来への感謝や念仏を心中で唱える。
  5. 礼拝:最後に軽くお辞儀をして席へ戻ります。

 ここでの特徴は、**焼香に入る前に「合掌」しない**点です。焼香が終わってから合掌し、礼拝する流れと覚えておくとよいでしょう。なお、葬儀や法要の場面では、周囲に合わせるかどうか、住職から指示があればそれに従います。

3. 真宗大谷派(東本願寺)の焼香作法

 真宗大谷派(東本願寺)では、焼香のタイミングと合掌のタイミングが本願寺派(西)と異なることがよく指摘されます。以下はあくまで一般的なモデルケースですが、「焼香に入る前に合掌する」という点が大きな特徴です。

  1. 焼香台の前へ進む:順番が来たら焼香台の前に立ちます。
  2. 最初に合掌:一度合掌をしてから、お辞儀(礼拝)を軽く行うケースが多い。合掌の際に阿弥陀仏へ帰命する心持ちを表す。
  3. 香をつまむ:本願寺派と同様、抹香を指で少量つまみ、頭上まではいただかずに炉に落とします。回数は1回または2回。住職の指示や地域習慣によって違う。
  4. 再度合掌:焼香後、もう一度合掌してから軽く礼拝し、席へ戻ります。

 このように、大谷派では焼香の開始前に合掌を入れる作法が比較的一般的です。ただし、実際の法要では住職や式次第に合わせる場面が多いため、無理に自流を押し通すよりもその場の指示に従うのが望ましいでしょう。

4. 回数と頭上へのいただきについて

 **焼香の回数**に関しては、本願寺派大谷派ともに、1回または2回が多いとされています。ただし、地域の慣習により2回、3回とする場合もあり、全国的に統一されているわけではありません。
また、浄土真宗では、**他宗のように香を頭上まで高くいただく動作を基本的には行いません**。これには、「修行による功徳」を高く掲げるという自力的発想とは無縁であるという真宗の立場があると言われています。「南無阿弥陀仏」に象徴される他力本願の教えを徹底しているため、頭上にいただく所作は必要ないと解釈されるのです。

5. どちらの作法を取ればいいのか?

本願寺派(西)と大谷派(東)で焼香作法が異なる点をまとめると以下になります:

  • **本願寺派(西)**:焼香前に合掌しない → 香を捧げてから合掌・礼拝
  • **大谷派(東)**:焼香前に合掌 → 焼香後に再度合掌・礼拝

 どちらの作法も阿弥陀仏への感謝他力本願の精神を根底に置いているため、**本質的には大きく違わない**と言えるでしょう。もし自分が本願寺派出身で、大谷派の行事に参列する場合、またはその逆の場合、基本的には現地の住職や係員の指示に従うのがマナーです。

6. 葬儀・法事での実践ポイント

実際の葬儀や法事で焼香する際に大切なのは、周囲の流れに合わせることと、ゆったりと落ち着いた動作で行うことです。緊張して焼香動作を間違えるよりも、**合掌や礼拝を穏やかに行う姿勢**のほうが遥かに印象が良いものです。
– **指示を確認**:事前に住職や係の人から「今日は何回焼香しますか」「合掌の順番はどうか」など教えてもらえると安心。
– **動作はゆっくり**:焦らず、落ち着いて香をつまみ、静かに炉に落とす。合掌も深い呼吸とともに行う。
– **頭上にはいただかない**:真宗の場で焼香する時は、他宗のように高くいただかない。

7. まとめ

浄土真宗には、焼香における「他力本願」の思想が根付いており、その結果、他の宗派と比べて**香を頭上に高く掲げない**などの違いが生まれました。さらに、本願寺派(西本願寺)真宗大谷派(東本願寺)では、焼香の開始前に合掌をするかしないかなど、細部の所作が微妙に異なります。
ただし、いずれの場合も**「阿弥陀仏に感謝し、他力に目覚める」**という焼香の意義は変わらず、回数やタイミングにとらわれすぎる必要はありません。大切なのは、落ち着いた態度で仏に手を合わせ、心からの感謝と念仏の心を捧げることです。どちらの派に属していようとも、焼香の本質が「仏とつながる時間」であることを忘れず、慎みある所作を心がけたいものです。

参考資料

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