『教行信証』各巻の読み解きポイント

目次

はじめに

浄土真宗の根本聖典のひとつとされる『教行信証』は、親鸞聖人が著した大著であり、浄土真宗の信仰と実践を体系的に示す重要な書物です。
一般に「教行信証」というと、教巻(きょうかん)・行巻(ぎょうかん)・信巻(しんかん)・証巻(しょうかん)・真仏土巻(しんぶつどかん)・化身土巻(けしんどかん)の6巻で構成され、「阿弥陀仏の本願」「私たちが念仏によって救われる道筋」が、インド・中国・日本の仏教の流れを踏まえて論理的に解き明かされています。
本記事では、それぞれの巻(かん)に着目し、どのような内容が述べられているのか、浄土真宗を学ぶうえでどんなポイントに注目すると理解が深まるのかを解説していきます。

1. 『教行信証』の構成:6巻(かん)とは

『教行信証』は、以下の6巻(かん)で構成されています。
1. 教巻(きょうかん)
2. 行巻(ぎょうかん)
3. 信巻(しんかん)
4. 証巻(しょうかん)
5. 真仏土巻(しんぶつどかん)
6. 化身土巻(けしんどかん)
親鸞聖人は、この6巻を通じて、**阿弥陀仏の本願**がいかにすべての衆生を救済するものであるか、また私たちが**念仏によってその救いにあずかる**道筋をさまざまな経文や祖師の説を引用しながら論じています。

2. 教巻(きょうかん):阿弥陀仏の本願を学ぶ

教巻では、阿弥陀仏の本願を中心に「仏教の教え(教)」がどのように説かれているかを示しています。ここでは主に以下の点が注目されます。

  • 阿弥陀仏の四十八願:特に第十八願(念仏往生)などが繰り返し言及され、**「すべての衆生を救うために立てられた本願」**の内容が解き明かされる。
  • 経典の引用:『無量寿経』『阿弥陀経』『観無量寿経』などの**浄土三部経**をはじめ、さまざまな経典が引用され、阿弥陀仏の救いがいかに絶対かを示す。
  • 他力本願:私たちが自力で悟りを開くのは困難であるが、**阿弥陀仏の力(他力)**によってこそ救われるという浄土真宗の根本姿勢が明確に示される。

3. 行巻(ぎょうかん):念仏の実践

行巻では、阿弥陀仏の本願を現実にどう「行(ぎょう)」として実践するかが示されます。ここでは、**「南無阿弥陀仏」**を称える念仏の行いが、もっとも尊い修行として位置づけられています。

  • 専修念仏:法然上人から受け継いだ、ただ念仏によって往生できるという**「専修念仏」**の教えが強調される。
  • 自力と他力:私たちが多くの煩悩を抱える凡夫であるからこそ、自力修行ではなく**他力(阿弥陀仏のはたらき)**にすがる念仏がもっとも確実な道と説く。
  • 行の実践:念仏を称えることで、私たちは阿弥陀仏にすでに救われているという安心が実感される。これが「行」の本質として親鸞聖人が論じる部分。

4. 信巻(しんかん):信心を深める意義

信巻は、浄土真宗の信仰において最も重要とされる「信(しん)」について解説されている巻です。ここでは、**阿弥陀仏の本願を心から受け容れる**信心の尊さが説かれます。

  • 信心の要:念仏を称えても、ただ形式的に行うだけではなく、**阿弥陀仏の本願を全面的に信じ切る心**(信心)が不可欠である。
  • 自力を捨てる:自分の力で悟ろう、救われようとするのではなく、**「阿弥陀仏によってすでに救われている」**ことを素直に受け取る姿勢を持つ。
  • 悪人正機:親鸞聖人特有の、**「悪人こそが阿弥陀仏の正客(しょうきゃく)」**という考え方に繋がり、誰もが信心によって救われる道が開かれるとされる。

5. 証巻(しょうかん):往生の確信

証巻では、念仏と信心によって浄土に往生するという確信(証)が得られることを示しています。ここでの「証」とは、単なる理論上の理解ではなく、**私たちの心に生起する確固たる安心**を指します。

  • 仏の証明:阿弥陀仏が私たちを救うことを誓われているのだから、念仏を称え、信心を得た者には**往生の証明**(保証)がある。
  • 安心立命:この確信によって、私たちは生きている間も**「阿弥陀仏のはたらきによって支えられている」**という安らぎを得ることができる。

6. 真仏土巻(しんぶつどかん)・化身土巻(けしんどかん):仏土に関する論考

**真仏土巻**と**化身土巻**は、『教行信証』の後半にあたり、阿弥陀仏の**浄土**(真実の仏土)と、衆生が日常で体験するような**化身土**(けしんど)について論じた部分です。
– **真仏土巻(しんぶつどかん)**:阿弥陀仏の浄土がどういう性質を持ち、どう真実であるかを説き、念仏者が往生すべき国土がいかに尊いかを論じる。
– **化身土巻(けしんどかん)**:仏が方便的に示す世界としての化身土(けしんど)を取り上げ、人々がいかに錯覚や迷いによって仮の世界に生きているかを示す。
親鸞聖人は、この2巻を通じて、**「念仏によって真実の浄土に往生しうる道」**と、**「迷いの世界との対比」**を明らかにしています。

まとめ

**『教行信証』**は、教巻(きょうかん)・行巻(ぎょうかん)・信巻(しんかん)・証巻(しょうかん)・真仏土巻(しんぶつどかん)・化身土巻(けしんどかん)の計6巻から構成され、阿弥陀仏の本願念仏による救い、そして人間が浄土に往生する確信について多角的に説かれています。
1. **教巻**:阿弥陀仏の本願の根本を理解し、他力本願の尊さを学ぶ。
2. **行巻**:念仏を実践する道筋を示し、専修念仏の意義を認識。
3. **信巻**:阿弥陀仏を信じる心(信心)がいかに重要かを掘り下げ、悪人正機を示唆。
4. **証巻**:浄土に往生するという確信(証)を持つことで、生き方が変容する。
5. **真仏土巻**・**化身土巻**:真実の浄土と化身土の対比を論じ、阿弥陀仏の浄土へ往生する意義をさらに強調。
これらを順番に読み解いていくことで、「南無阿弥陀仏」という念仏の背後にある阿弥陀仏の強い本願、そして私たちを支えてくださる他力のはたらきをより深く理解することができるでしょう。

参考資料

  • 親鸞聖人『教行信証』
  • 本願寺出版社『正信偈のこころ』
  • 浄土真宗本願寺派(西本願寺)公式サイト
  • 真宗大谷派(東本願寺)公式サイト
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