帰敬式(おかみそり)と葬儀:真宗独特の流れ

目次

1. はじめに:帰敬式(おかみそり)とは何か

浄土真宗では、生前または死後に「帰敬式(ききょうしき)」と呼ばれる儀式を行い、仏弟子として阿弥陀仏の教えに帰依する姿勢を明確にすることがあります。一般には「おかみそり」という名称で知られ、戒名ではなく「法名」を正式に授かる点が特徴です。
他宗派の「受戒」に似た位置づけですが、浄土真宗では「すでに阿弥陀仏の本願により往生が定まっている」という考えがあるため、受戒によって救いを得るのではなく、あくまで「仏弟子となったことを自覚」する意味が強調されます。本記事では、この帰敬式(おかみそり)が葬儀とどのように関係し、真宗ならではの流れをどう捉えるかを解説します。

2. 帰敬式(ききょうしき)の位置づけ

帰敬式は、法名を授かるための正式な儀式であり、生前に受けることを基本とします。たとえば、人生の節目や結婚時、還暦などに受ける方もいますが、近年は葬儀のタイミングで一緒に行うこと(死後受ける)も増えています。
– **生前受け** : 本来は「私は阿弥陀仏のおかげで救われている」と改めて誓い、法名を頂いて信仰を深める。
– **死後受け** : 「おかみそり」の形式として、故人が仏弟子として阿弥陀仏の光に包まれていることを確認する葬儀上の儀式として行われる。
いずれの場合も、「自分が仏弟子となる」ことの表明という意味が根底にあり、引導を受ける他宗派の儀式とは異なります。

3. おかみそりの手順:髪をそる意義

おかみそりとは字のごとく、坊主頭にするかのような形で髪を剃る動作を儀式化したものですが、実際には少量の髪を切る程度で行われることが多いです。これには、以下のような意味合いがあります:

  • 出家の象徴: 本来、僧侶になる際に頭を剃る行為(剃髪)を簡略化し、在家のまま「阿弥陀仏の弟子」となったことを示す。
  • 煩悩を断つという発想は弱い: 浄土真宗では「自力で煩悩を断ち切る」というより「他力に生かされている」意識が中心。剃髪自体もシンボル的な意味が大きい。

実際の儀式では、住職がハサミや剃刀のような道具を使って髪の毛をわずかに切り、法名を授けるのが一般的です。

4. 葬儀と同時に行う理由:死後の法名授与

本来、法名(かつての「戒名」に相当)は生前に授かるのが理想ですが、近年は葬儀の際に初めて法名をもらうケースが多く、「帰敬式」と合わせて葬儀中に短縮形で行う場合があります。これにより:

  • 故人が仏弟子であることを確認: 死後に「阿弥陀仏の弟子として仏の光に包まれている」ということを象徴的に示す。
  • 遺族が安心を得る: 「故人はもう仏となっている」という浄土真宗の教えに裏付けされた安心感を得やすい。
  • 経済的・時間的合理化: 別に帰敬式の場を設ける必要がなく、一度に葬儀と法名授与を済ませる。

ただし、必ずしも葬儀と合わせなければならないわけではなく、実際には寺院との相談によって柔軟に決められます。

5. 式次第の一例:葬儀と帰敬式を同時に行う

葬儀と帰敬式(おかみそり)を同時に進める場合、以下のような流れが想定されます(あくまで一例):

  1. 葬儀式開式: 住職の読経(正信偈など)から始まり、喪主・遺族、参列者が焼香する。
  2. おかみそり(帰敬式): 葬儀の途中または終盤で、住職が故人の髪に象徴的にハサミを当てる動作をし、法名を授与する。
    (法名がすでに生前に授与済みの場合は省略)
  3. 法話: 住職が「故人は阿弥陀仏の本願により往生している」ことを語り、遺族や参列者に安心をもたらす。
  4. 喪主挨拶: 参列者へ感謝を伝え、「故人は仏弟子として往生いたしました」などの言葉でまとめる。
  5. 閉式・出棺: 火葬場へ向かう場合は、そのまま遺体を移動し、火葬へと進行。

地域や寺院の慣習によっては、おかみそりを葬儀前に別途行うなど、さまざまなバリエーションがあります。

6. 他宗との違い:剃髪や受戒の捉え方

他の仏教宗派では、受戒によって「戒律を守り、修行を進める」ことが強調され、剃髪は煩悩を断つ決意を象徴する場合があります。
一方、浄土真宗では「阿弥陀仏の本願によって往生が定まる」という他力本願の考え方を重視し、「剃髪や受戒によって救われる」わけではありません。そのため、おかみそり(帰敬式)も、あくまで仏弟子としての自覚を表すシンボル的行為として受け止められています。

7. まとめ:帰敬式(おかみそり)と葬儀の融合

浄土真宗における帰敬式(おかみそり)は、「仏弟子として法名を授かり、阿弥陀仏へ帰依する」意思を表す儀式です。
– **葬儀と同時に行う場合**: 「死後に初めて法名をいただく」形となり、故人が仏弟子であることを儀式として示す。
– **他宗との違い**: 受戒によって救われる発想はなく、「既に往生が定まっている」ことを再確認する立場。
– **遺族や参列者の安心**: 阿弥陀仏の光に包まれる安心感を共有し、亡くなった方を仏弟子として見送る。
帰敬式(おかみそり)を葬儀と合わせて行うことで、浄土真宗独特の「他力本願」をより鮮明に感じられる葬儀になるでしょう。親族や住職と事前にしっかり相談し、式次第を調整するのがポイントです。

参考資料

  • 『教行信証』 親鸞聖人 著
  • 『御文章』 蓮如上人 著
  • 浄土真宗本願寺派・真宗大谷派 公式サイト
  • 地域の寺院・住職への聞き取り調査
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