はじめに
親が高齢になり、認知症の疑いがある場合、「果たして遺言書を作っても有効なのか?」と不安を感じる方は少なくありません。
遺言書は本人の意志が明確であることを前提に、有効な法的文書として成立しますが、認知症や判断能力の低下が疑われる場合、「遺言能力があるかどうか」が争点になることもあるのです。
本記事では、遺言書が有効と認められるためのポイントや、認知症の疑いがある場合の対策、さらに浄土真宗的視点からのヒントを解説します。
1. 遺言書が有効となる条件
遺言書は、法律で定められた方式で作成され、遺言能力(作成時の判断能力)が認められることが有効性の条件です。判断能力については、以下が重要なチェックポイントです。
- 遺言能力とは?
- 民法上、「15歳以上で意思能力があること」が遺言作成の基本条件。
ただし、高齢であっても認知症の程度によっては意思能力を欠くとされ、遺言書が無効になる可能性も。
- 民法上、「15歳以上で意思能力があること」が遺言作成の基本条件。
- 時点の判断
- 遺言書作成時点で意思能力があったかどうかが問われる。
作成後に認知症が進行しても、作成時に能力が認められれば遺言書は有効。
- 遺言書作成時点で意思能力があったかどうかが問われる。
- 医療証拠・専門家の証明
- 認知症の疑いがある場合、医師の診断書や精神科医の意見書などで意思能力を裏付ける証拠があると、後々の争いを回避しやすい。
2. 認知症の疑いがある場合の対策
親に認知症の疑いがあるときは、以下のようなステップで遺言書の有効性を確保する手段を検討しましょう。
- 早めの受診・診断
- 認知症の兆候があるなら、専門医の受診をすすめる。
診断書を得ることで、「遺言作成時点では意思能力があった」というエビデンスを残しやすい。
- 認知症の兆候があるなら、専門医の受診をすすめる。
- 公正証書遺言を利用
- 公証人の関与によって作成する公正証書遺言なら、公証人が本人の意思能力を確認するため、有効性を争われにくい。
- 弁護士・医師の立ち会い
- 自筆証書遺言を作成する際、弁護士や医師が同席し、作成時の状況を記録しておくと、法廷で争いになった場合でも証拠として有利。
3. 浄土真宗の視点:財産と判断能力への執着
浄土真宗では、「阿弥陀仏の本願によって救われる」という教えが軸となり、財産や能力への過度な執着を否定する面があります。
認知症の疑いがある親を支える場合でも、以下のような視点を大切にできます。
- 念仏で心を支える
- 「南無阿弥陀仏」を通じて、自分や親の状態を客観視できるよう心がける。
認知症への不安や恐れを和らげるのに役立つ。
- 「南無阿弥陀仏」を通じて、自分や親の状態を客観視できるよう心がける。
- 財産は仮のもの
- 仏教の「縁起」の考えから、**財産は絶対的な所有ではなく、縁によって得たもの**と捉える。
親の判断能力に固執するのではなく、**家族全員で支え合う**発想を持ちやすくなる。
- 仏教の「縁起」の考えから、**財産は絶対的な所有ではなく、縁によって得たもの**と捉える。
4. 認知症が進んだらどうする?
もし認知症の進行が避けられない場合、以下の制度や方法を検討し、遺言の代替や財産管理をスムーズに行えるようにしましょう。
- 任意後見制度
- 判断能力があるうちに、将来の後見人を決める契約を結ぶ。
認知症が進行してから任意後見契約を発動し、家族や信頼できる人が財産管理を行う。
- 判断能力があるうちに、将来の後見人を決める契約を結ぶ。
- 家族信託
- 生前に信託契約を結び、受託者に財産管理を任せる。
親の判断能力が低下しても、**財産が安全**に管理される利点がある。
- 生前に信託契約を結び、受託者に財産管理を任せる。
5. まとめ
高齢の親が認知症の疑いを持ち始めても、適切な手続きや専門家のサポートを得れば、遺言書を有効に作成し、**相続トラブル**を防ぐことは可能です。
– 遺言書の有効性には、作成時点で意思能力があることが重要。医師の診断書や公正証書遺言などで裏付けを持たせる。
– 浄土真宗の考え方では、**財産や能力への過度な執着**を和らげ、「他力本願」の安心感で家族と協力し合う姿勢を後押し。
– 認知症が進んだ場合、任意後見制度や家族信託を活用し、**円滑な財産管理**を実現できる。
こうした視点を大切にしながら、親子や家族全員が心穏やかに相続を迎えられるよう、早めに準備と話し合いを進めることが大切です。
参考資料
- 認知症と相続・遺言書に関する法律書や専門家(弁護士・司法書士)のサイト
- 浄土真宗本願寺派 公式サイト
- 真宗大谷派(東本願寺) 公式サイト
- 本願寺出版社『正信偈のこころ』