自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言

遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれ作成方法や法的効力、保管方法などに違いがあります。
一般的に知られているのが、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という3つの形式です。
本記事では、それぞれの遺言書がどのような特徴を持ち、どんな人に向いているかを解説し、あわせて浄土真宗の「他力本願」との関係を紹介します。


目次

1. 自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)

「自筆証書遺言」は、本人が紙とペンで手書きする最もシンプルな形式の遺言書です。
以下のようなポイントがあります:

  • 作成要件
    • 全文を自筆で書く(パソコンやワープロは不可。ただし財産目録は例外あり)
    • 日付氏名を自書し、押印する
  • メリット
    • 費用がかからない(自分で書くだけ)
    • いつでもどこでも作成できる
  • デメリット
    • 紛失・改ざんのリスクが高い
    • 要件不備や文字の書き間違いで無効になりやすい
    • 検認が必要(法務局保管制度を利用しない場合)

近年は「自筆証書遺言書保管制度」が始まり、法務局に預けることで紛失や検認手続きを回避できるメリットが生まれました。


2. 公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)

「公正証書遺言」は、公証人の前で作成される法的に最も確実な形式の遺言書です。
特徴としては:

  • 作成手順
    • 遺言者が公証役場に出向き(または公証人に出張を依頼)、2名以上の証人の立ち会いで内容を口述
    • 公証人が文章化し、遺言者・証人が確認後に署名押印
  • メリット
    • 無効リスクが低い(専門家がチェック)
    • 検認が不要(公正証書のため開封も自由)
    • 原本は公証役場で保管し、紛失や改ざんの恐れがほぼない
  • デメリット
    • 公証人への手数料や証人謝礼などの費用がかかる
    • 内容を公証人と証人が知ることになるため、秘密性がやや劣る

公正証書遺言は、費用と手間はかかるものの、確実性が高く失敗リスクが少ないため、資産額が多い人相続関係が複雑な場合に特にお勧めされます。


3. 秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)

「秘密証書遺言」は、遺言書の内容を秘密にしたまま公証役場に手続きを行う方法です。
作り方としては:

  • 遺言書本文: 遺言者が自由に作成(手書き・ワープロも可)※公正証書ほどの形式厳格さはない
  • 封印して公証役場へ: 署名押印した封筒に入れて、公証人と証人が封印の存在を確認
  • メリット: 遺言の内容は公証人や証人にも知られない
  • デメリット
    • 検認が必要
    • 形式不備で無効になるリスクも高い(中身はチェックされないため)
    • 結局、秘密保持有効性の確保を両立させるのが難しい

秘密証書遺言はあまり利用されていないのが実情で、自筆証書または公正証書を選ぶ人が圧倒的に多いです。


4. 浄土真宗と「他力本願」から見る遺言

浄土真宗では、「往生は阿弥陀如来の本願によって定まる」ため、遺言書の有無や内容成仏を左右するわけではありません。
しかし、遺された家族争うことなく故人を偲ぶためには、遺言書が大きく貢献すると考えられます。
他力本願の考え方を背景に、「財産や死後の希望を明確にしておく」「周囲に混乱を残さない」ことは、家族を思いやる行為とも言えるでしょう。


5. 選び方のポイント

どの形式を選ぶかは、個々の事情によりますが、以下の点を参考にするといいでしょう:

  • 財産の規模・内容: 財産価値が大きい、相続人が多い、紛争リスクが高いほど公正証書がお勧め
  • 費用・手軽さ: 費用を抑えたい場合は自筆証書法務局保管制度を活用でリスク軽減
  • 内容の秘密保持: どうしても公証人や証人に知られたくない場合、秘密証書を検討。ただし実務上はリスク高
  • 専門家の相談: 弁護士や司法書士に内容のチェックを依頼すれば、形式不備やリスクを低減

まとめ:確実性と手軽さ、どちらを重視するか

  • 自筆証書遺言: 手軽に作れるが無効リスク高。法務局保管で紛失・検認リスクを回避。
  • 公正証書遺言: 確実性が最も高く、検認不要費用や手間がかかるが
    失敗リスクが少ない。
  • 秘密証書遺言: 内容を秘密にできるが、検認が必要で実務上の利用は少ない。
  • 浄土真宗の視点: 遺言の形式が成仏を左右しないが、家族の絆を守るために作成・保管を心掛ける。

自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言」はいずれも合法的な遺言の手段です。
浄土真宗の「他力本願」の考え方をベースにすれば、「財産や死後の希望は多くのご縁や家族の助けを踏まえ、円満に形にしておく」ことが理想と言えるでしょう。
費用・リスク・手間を総合的に考慮しつつ、専門家(弁護士や司法書士、公証人など)に相談しながら自分に合った遺言書を作成・保管してみてください。


参考資料

  • 民法(遺言に関する条文)
  • 法務局「自筆証書遺言書保管制度」情報
  • 『教行信証』 親鸞 聖人 著
  • 『歎異抄』 唯円 著
  • 相続・遺言に関する弁護士・司法書士の実用書
  • 浄土真宗本願寺派・真宗大谷派 公式情報
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