はじめに
相続問題は、家族の将来に関わる重大なテーマでありながら、なかなかオープンに話し合いづらいものです。私自身、両親が高齢になり、いずれは避けられない“相続”の話をしなければいけない状況にありながら、長い間それを先送りにしてきました。ところが、実際に話し合いの場を持ち始めると、想像以上に感情的な対立や価値観の衝突が生まれ、家族関係がギクシャクしてしまったのです。今回は、そんな相続問題に頭を抱えていたときに、たまたま仏教(浄土真宗)の教えに触れ、そこから得られた大きなヒントについてお話しします。
1. 相続問題で家族がバラバラに…
1-1. 親の意思をめぐって兄弟が対立
私には二人の兄と姉がいます。これまでは仲の良い家族だと思っていたのですが、いざ実家の土地や家、財産をどう分けるか、また両親の介護をどう負担するかという話になると、各自の意見が噛み合わず、小さな不満が募るようになりました。
母は「家は長男が継ぐべき」と考え、父は「平等に分けたい」と言い、兄は仕事の都合で遠方に住んでいるので「頻繁に戻るのは無理」と言い、姉は「私は長年親の面倒を見てきた」と強調する—みたいな展開が続き、ますます深刻化していったのです。
1-2. 話し合いが進まず、私もストレスMAX
私はどちらかといえば調整役のつもりでしたが、どこかで「親の財産を巡る打算」を感じることもあり、正直うんざりする瞬間がありました。「家族がこんなにギスギスするなんて」とショックを受け、相続の話題が出るたびに心が重くなるばかり。家族の仲が壊れそうで、不安とストレスがピークに達していました。
2. 仏教との出会い:たまたま行った法話会
2-1. 知人の誘いで浄土真宗のお寺へ
そんなあるとき、たまたま知人に誘われて、近所の浄土真宗のお寺で開かれる法話会に参加することになりました。正直なところ「仏教なんて興味ないけれど、気晴らしに行ってみるか」という軽い気持ち。
しかし、そこで住職の法話を聞いているうちに、「あ、これって自分の相続問題にも通じるかも…」と思う瞬間が何度もありました。住職が語る「自力と他力」の話や「自分と他者との関係」、「煩悩が生む苦しみ」などが、妙に胸に響いたのです。
2-2. 他力本願:一人で解決しなくてもいい
特に印象的だったのは「他力本願」の話です。自分の力だけで何とかしようと必死になるとき、人はしばしば視野が狭くなり、相手に対する思いやりが欠けてしまう。浄土真宗では、「自力の限界を認め、阿弥陀仏の大いなるはたらきに身を委ねる」という発想が救いの源だと説きます。
「相続問題を自分だけで解決しよう」「兄弟姉妹を説得しよう」と思い詰めていた私には、「他の力(他者や仏の大きな力)を頼っていい」というメッセージが深い安堵感を与えてくれたのです。
3. 仏教の教えがもたらした解決のヒント
3-1. 「悪人正機」と自己の執着を見つめる
また、浄土真宗でしばしば言われる「悪人正機」の考え方も興味深く感じました。これは、自分が煩悩を抱える不完全な存在であると自覚することで、より深い他力の救いに気づけるという逆説的な思想です。
相続問題で悩んでいた私も、「兄弟が悪い、両親が頑固だ」と他人を責めがちでしたが、ふと「自分もまた強い執着を持っている」ことに気づきました。多少なりとも「自分に有利になれば」という欲があったこと、そして「家族がこうあるべき」という勝手な理想像を押しつけていた節があることを認めると、少しだけ視点が変わったのです。
3-2. コミュニケーションを大切にし合う気持ち
法話会の中で住職が、「家族同士も縁起によって繋がっている。自分の一方的な考えを押し通すのではなく、相手の背景や気持ちを尊重する中で解決を探るべきだ」と強調していました。
相続というテーマは金銭や権利の話になりがちですが、それよりも先に、お互いがどんな思いを抱えているのかを丁寧に聴き合う姿勢が重要なのだと痛感しました。報恩講や葬儀などを通じて学んだ仏教の対話の在り方は、まさに相続問題にも応用できそうです。
4. 具体的に家族で工夫したこと
4-1. 一人で抱え込まない「他力思考」
仏教の教えを参考に、相続問題を話し合うとき、自分だけが解決策を考えるのではなく、兄弟や両親、それに第三者の意見(法律の専門家やお寺の住職など)も柔軟に取り入れるようにしました。いわば「他力思考」。
これによって、私が勝手に「こうしなければならない」と思い詰めていた部分が大幅に軽減され、「みんなで話し合って最適解を探そう」という空気が生まれました。
4-2. まずは感情を共有し合う場を作る
財産や書類の話をする前に、家族で「お寺にお参り」したり、「茶話会のような場」を設けて、単純に近況を話し合う時間を作ったのもポイントでした。感情がしっかり通い合えば、相手の意図や思いを汲み取りやすくなり、冷静に具体的な分割や手続きの相談が進むようになりました。これは仏教の「和合」の精神にも通じると感じています。
5. まとめ
「親との相続問題で悩んだ末に見つけた仏教のヒント」は、私にとって大きな安心と客観的視点をもたらしてくれました。特に浄土真宗の「他力本願」や「悪人正機」の考え方は、自分ひとりで完璧に解決しようとする無理や、「他人が悪い」と断ずる思考から抜け出すきっかけになったのです。
相続問題が絡むと、家族であっても争いや対立が起きやすいのは事実です。しかし、仏教的な「縁起」や「共存」の視点を取り入れ、「自分も相手も煩悩を持った人間だ」という自覚を持つことで、意外なほどスムーズに話が進む場合もあるのではないでしょうか。これからも、阿弥陀仏の慈悲に思いを馳せつつ、家族みんなで納得できる道を探っていきたいと思っています。
【参考文献・おすすめ書籍】
- 親鸞聖人 著 『教行信証』(各種現代語訳)
- 歎異抄:岩波文庫版ほか多数
- 法律関係:相続専門サイト、弁護士・司法書士の無料相談など