はじめに
最近では「仏式の葬儀」と言っても、地域や宗派によって内容や進行に違いがあり、初めて参列する場合には戸惑うこともあるでしょう。私は先日、親戚の浄土真宗(本願寺派)の家のご葬儀に初めて参列しました。それまで「仏式」といえば焼香や読経がある程度のイメージしかありませんでしたが、いざ体験してみると浄土真宗ならではの特徴や、心に響く教えにふれる機会となりました。本稿では、そのときの体験をもとに浄土真宗のお葬式で印象的だったことや気づきをまとめ、皆さんの参考になればと思います。
1. 事前の準備と葬儀当日までの流れ
1-1. 連絡と打ち合わせ
亡くなったのは私の伯父で、深夜に容体が急変し、その数時間後に息を引き取りました。
伯父の家族は浄土真宗の本願寺派(通称「お西」と呼ばれる教団)のお寺のご門徒であり、早朝にそのお寺の住職へ連絡して日程調整や枕経などの打ち合わせをしていました。私は伯父の家に着いたときにはすでに住職が来られており、枕経と呼ばれる仮通夜的な読経が静かに行われていました。
1-2. 通夜と葬儀の日程
伯父の家族は、葬祭業者と相談しながら「通夜」と「葬儀・告別式」を連日の形で設定。浄土真宗のお葬式では、一般的に阿弥陀仏への念仏が中心となりますが、通夜でも同様に住職が来て読経し、遺族や親族が焼香をして故人を見送ります。その際、住職の法話が挟まれることもあり、私はここで初めて「人生は阿弥陀仏の慈悲の中で続いている」という話を聞き、妙に心が落ち着いたのを覚えています。
2. 浄土真宗のお葬式の特徴
2-1. なぜ「戒名」がないのか?
他宗派の仏式葬儀では、故人に「戒名」を授けることが一般的ですが、浄土真宗では「戒名」という概念はなく、法名(釋◯◯など)を付けてもらうのが通例です。これは、他力本願の教えによってすでに阿弥陀仏からいただいている名である、という解釈が背景にあるそうで、「戒を授かる」というよりは「仏弟子としての名をいただく」という考え方が強いとのこと。
伯父も生前にすでに法名をいただいていたため、葬儀ではその法名が読み上げられました。これが私には意外でしたが、「戒を受けて功徳を積む」という発想ではなく、「私たちはすでに阿弥陀仏の弟子である」という考え方がとても新鮮に感じられました。
2-2. 焼香と念仏の唱和
葬儀の進行は、僧侶の読経があり、遺族・親族・参列者による焼香が行われる点は他の仏式と似ていますが、特に印象的だったのは、読経の合間や節目に「南無阿弥陀仏」を会場全体で唱えるタイミングがあったことです。
声に出して唱える人もいれば、心の中で称える人もいるようでしたが、会場全体に「南無阿弥陀仏…」という響きが流れたとき、悲しみに暮れる雰囲気がやわらかい温もりを帯びるのを感じ、私自身も不思議と涙が溢れてきました。
2-3. 法話:阿弥陀仏の本願と往生
住職が短い法話をされた際、「◯◯さんは阿弥陀様の大きな光に包まれて、すでに極楽浄土へ往生なさいました。私たちもいつかその道を行きますが、それまでここで共に生きる時間を大切にしましょう。」というメッセージを語っていたのが非常に印象的でした。
悲しいはずの場面で、「救われている」という安心感を遺族や参列者が共有できるのは、浄土真宗の葬儀独特の特徴だと感じます。「死を恐れるのではなく、阿弥陀仏にお任せする」という姿勢が、実際に遺族の表情を少し穏やかにしていたように見えました。
3. 実際に参列して感じたこと
3-1. 思っていたより「明るい」雰囲気
葬儀と言えば重苦しい空気を想像しがちですが、浄土真宗の葬儀は意外と「明るさ」を伴っていました。もちろん深い悲しみや別れの辛さはありますが、阿弥陀仏にお任せするという発想が全体のトーンを和らげ、単なるお別れというよりは「往生の道を見送る」という感覚に近かったです。
特に、遺族が住職や親族と談笑したり「良い旅立ちになったね」と言い合ったりしている様子を見て、宗派による雰囲気の違いを強く実感しました。
3-2. 焼香の作法や細かな違い
焼香の回数や手順などはお寺や地域によって差があるそうですが、この葬儀では二回香をつまみ、額にいただいてから香炉にくべる作法が推奨されていました。ただし、住職によると「あまり形式にこだわるより、心を込めることが大切」とのことで、参列者の中には一回だったり三回だったりする人もいました。こうした寛容さも「他力」の教えを感じさせる気がします。
4. 現代社会への意味:死を通して生を考える
4-1. 「往生」への肯定的なまなざし
日本人は一般的に「死」について話すことを避ける傾向がありますが、浄土真宗の葬儀では死を「往生」と捉え、阿弥陀仏のもとへ帰るという肯定的な見方が明示的に提示されます。これは、残された側にとって「死を終わりではなく新たな門出」と捉えるヒントになり得ると思います。悲しみと同時に安心が生まれ、心の整理がつきやすくなるのではないでしょうか。
4-2. 生者と亡者の絆を保つ仏教文化
葬儀だけでなく、その後の法事や年忌などを通して、「亡き人は阿弥陀仏と共にある」というメッセージが繰り返し語られます。これは、亡き人との絆を失うのではなく、より深い形で結ばれるという考え方として、現代人がしばしば感じる「死別の孤独感」を緩和するのにもつながりそうです。
5. まとめ
今回、初めて浄土真宗のお葬式に参列したことで、他宗派の葬儀や私の事前のイメージとは異なる、独特の安らぎや明るさを感じる場面が多々ありました。
特に印象的だったのは、「阿弥陀仏に帰る」「念仏を通じて共に支え合う」という考え方です。決して死を軽んじているのではなく、深い悲しみを抱えながらも安心感を得られる仕組みがしっかりと根付いていると思いました。
悲しみを共有するだけでなく、そこに「救われている」「阿弥陀仏のもとへ往く」というポジティブなメッセージがあることが、浄土真宗の葬儀の大きな魅力と感じました。今後もし機会があれば、より深くこの教えに触れてみたいと思います。
【参考文献・おすすめ書籍】
- 親鸞聖人 著 『教行信証』(各種現代語訳)
- 浄土真宗本願寺派 編 『葬儀のしおり』 各寺院配布資料
- 大谷派 発行のパンフレット 『浄土真宗のお葬式』 など