年末年始の念仏行事:除夜の鐘は浄土真宗でどう扱う?

目次

1. はじめに:年末年始の仏教行事

日本では、大晦日から元旦にかけての年末年始に、多くの寺院で「除夜の鐘」や「修正会(しゅしょうえ)」などの行事が行われます。一般には「108つの煩悩を象徴する鐘を打つことで一年の汚れを祓う」という説明がなされ、すでに年越しの風物詩として広く定着しています。
では、浄土真宗(特に浄土真宗本願寺派や真宗大谷派)では、除夜の鐘をどのように捉え、どんな形で年末年始の念仏行事が行われているのでしょうか。本記事では、浄土真宗の年末年始行事と、そこにおける「除夜の鐘」の扱いについて解説します。

2. 浄土真宗での「除夜の鐘」の考え方

多くの寺院で「煩悩の数108にあわせて大晦日に鐘を108回打つ」という説明がなされることがあります。しかし、浄土真宗の立場では「煩悩を断ずるために108回打つ」というよりも、年越しの一瞬を念仏とともに迎える姿勢が重視されます。
それでも、除夜の鐘という風習は、日本仏教全体で共有されている伝統的な行事でもあり、現代の社会習慣として「一年の終わりと始まりを鐘で区切る」形で継承されているケースが多いです。寺院によっては「煩悩を祓う」という説明ではなく、「阿弥陀仏のご縁に感謝しながら打つ」として案内される場合もあります。

2-1. 「煩悩を断つ」はあまり強調されない

浄土真宗の教義は、他力本願に基づいており、「人間の煩悩を自力で断ずることは難しい」という立場を取ります。したがって、除夜の鐘を「煩悩を打ち払うため」という理解で積極的には説明しない傾向があります。
かわりに、「今年も命を与えられ、念仏を称えるご縁に感謝する」とか、「新しい年も阿弥陀仏に支えられて過ごせるよう念じる」といったメッセージを添えて、鐘の音を響かせる寺院が多いです。

3. 年末年始の代表的な行事:除夜の鐘と修正会

除夜の鐘は、大晦日の夜から元旦にかけて行われる行事であり、浄土真宗の寺院でも多くの場合、門徒や地域住民に開放して鐘を突く時間を設けています。
翌日の元旦には、「修正会(しゅしょうえ)」と呼ばれる法要が営まれることが一般的で、仏前で念仏を称えて新年を迎え、阿弥陀如来の本願に感謝と抱負を込める形が取られます。

3-1. 修正会の流れ

修正会では、本堂に門徒や参拝者が集まり、読経(正信偈恩徳讃など)を通じて一年の始まりを祝福します。住職や法話師が新年のメッセージを伝え、「今年も念仏とともに歩む」という誓いを新たにする場ともなります。
その後には簡単なお茶席や新年会のような交流の時間を設ける寺院もあり、多くの信徒が和やかに語らいながらスタートを切る行事として定着しています。

4. 除夜の鐘の実際の様子:寺院ごとの違い

現在、本願寺派(西本願寺)や真宗大谷派(東本願寺)を含む浄土真宗の寺院でも、大晦日に「除夜の鐘」を打つところは少なくありませんが、その意味づけが他宗に比べて多少異なる場合があります。

  • 一般開放かどうか:多くの寺院では参拝者に鐘突きを解放し、誰でも参加できる行事とする。人が多い場合は整理券を配布するなどの工夫をする例も。
  • 法要の有無:鐘を突く前後に短い法要を行い、念仏読経を通じて阿弥陀如来の本願に感謝する。煩悩を祓うというよりも、ご縁を確認する儀式として位置づける。
  • 参詣客へのメッセージ:寺院の掲示やパンフレットで「今年一年の感謝とともに鐘を打ち、明日からも他力に生きる自覚を深めよう」と呼びかけるケースがある。

いずれにせよ、伝統として受け継がれる行事でありながら、浄土真宗らしい「他力への感謝」をメインに据えている点が特徴的です。

5. 他宗との比較:煩悩を祓う vs. 他力本願への感謝

他宗派(天台宗、真言宗、禅宗など)の多くは、煩悩の数とされる108回の鐘を突くことで「一年の煩悩を断ち切る」という説明を強調する傾向があります。一方、浄土真宗は「煩悩を自力で断つ」というよりは、「阿弥陀仏の力に支えられている」というスタンスが基本です。
したがって、除夜の鐘を打つ理由も、煩悩断滅というよりは一年の念仏生活を支えられたことへの感謝を表し、新たな年も念仏による生き方を続けるという意識を高めるため、と説明されることが多いわけです。

6. 年末年始にやっておきたいこと:念仏の再確認

浄土真宗では、年末年始に限らずいつでも念仏を称える生活が理想とされますが、やはり年の節目として「除夜の鐘」や「修正会」に参加してみるのも意義深いです。
1. 仏前の掃除や飾りつけ
 年末の大掃除とあわせて仏壇をきれいに拭き、花や果物を供え、仏前で一年の感謝と念仏を称える。
2. 除夜の鐘に参加
 近隣の浄土真宗の寺院を調べ、鐘突きを体験させてもらう。そこで配られる法話やパンフレットを読んでみる。
3. 修正会で新年の抱負
 元旦の法要でお勤めに加わり、住職の話を聞く。自らの生活の中で念仏をどう生かすか考える時間を持つ。

7. まとめ:除夜の鐘と浄土真宗の精神

除夜の鐘は、日本全体で行われる年末行事ですが、浄土真宗の立場からは「煩悩を打ち消す」というよりも「阿弥陀仏に支えられた一年を感謝し、次の一年も念仏の道を歩む」というスタンスが強調されます。
新たな年の始まりを迎えるにあたって、「自力の修行」ではなく「他力本願」という浄土真宗らしい考え方を再確認し、除夜の鐘を打つ行為が心に染みる時間となるでしょう。皆が共有する鐘の音に、感謝と共に念仏の心を重ねて過ごす年末年始の意義は、他力本願への理解を深めるうえでも大切な一歩と言えます。

参考資料

  • 『教行信証』 親鸞 聖人 著
  • 『歎異抄』 唯円 著
  • 『念仏の年中行事』 寺院発行資料
  • 浄土真宗本願寺派・真宗大谷派 公式サイト
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