はじめに
浄土真宗では、他宗のように位牌を使用せず、故人の命日や法名を記録するために過去帳を用いる風習があります。また、法名軸(ほうみょうじく)や往生帳など、故人の法名や往生の証を示す独特の道具や風習も存在します。
これらは一見すると馴染みのない道具かもしれませんが、**「すでに阿弥陀仏の光に包まれている故人」**を日々思い出し、念仏を称えるために大切な要素となっています。今回は、過去帳や法名軸など、浄土真宗特有の風習や道具を紹介し、その意味と役割を解説します。
1. 過去帳:故人の命日と法名を記録する帳面
過去帳は、故人の命日や法名を一冊の帳面にまとめて記録するもので、浄土真宗においては位牌の代わりといえる存在です。
すでに別の記事でも取り上げましたが、ここでも要点を簡単に整理します。
- 記入内容:法名(本願寺では「法号」とも)、命日、享年(または行年)などを記す。
- 記入の時期:四十九日や初七日など、故人の法名が決まったタイミングで書き込むことが多い。
- 日々の確認:お内仏(仏壇)や専用の台に安置し、命日のたびに故人の往生を思い起こすために活用。
浄土真宗の考え方では、「亡き方はすでに阿弥陀仏のもとへ往生している」ため、位牌を安置し「そこに故人の魂が宿る」と考えるのではなく、**過去帳へ命日や法名を記す形**で故人とのご縁を残すのです。
2. 法名軸(ほうみょうじく)とは
法名軸(ほうみょうじく)は、故人の法名(あるいは法号や戒名)を掛軸として作成し、お内仏(仏壇)に安置する風習です。これは、
- 故人の信仰の証:浄土真宗では「故人が往生するために必要な名」ではなく、「阿弥陀仏に救われている証」としての法名を軸に仕立てる。
- 位牌の代わり:他宗でいう位牌のように、法名を可視化して**家族が日々拝む対象**として扱う。
ただし、法名軸を必ず作らねばならないわけではなく、過去帳のみで済ませる家も多いです。法名軸を安置するかどうかは、家の慣習や寺院の指導によります。
3. 往生帳とは
地域や寺院によっては、過去帳と共に往生帳(おうじょうちょう)という名前を聞くことがあります。往生帳とは、
- 寺院の側で作成・保管される場合が多い:門徒や故人の往生を寺院として登録する意味合い。
- 過去帳との違い:過去帳は家・個人が保管するもの、過去帳(往生帳)はお寺が管理するもの、という位置づけ。
- 地域差:必ず往生帳を備える寺院もあれば、そうでない寺院もあり、名称が異なる場合もある。
いずれも、**「故人が阿弥陀仏のもとに往生した事実を記録し、後世まで伝える」**という共通の目的を持つと言えるでしょう。
4. 真宗独特の風習の背景
なぜ浄土真宗では、過去帳や法名軸といった風習が発達し、位牌を用いないのでしょうか。背景には「すでに往生が定まっている」という徹底した他力本願の思想が潜んでいます。
- 「故人の魂が存在する場」としての位牌の否定:浄土真宗の視点では、亡き方の魂が位牌に宿るという考え方は基本的に取りません。
- 法名(戒名)観の違い:戒名によって成仏させるのではなく、**阿弥陀仏の本願**で往生が既に成就しているからこそ、法名はその証と位置付ける。
- 記録や縁を大切にする:過去帳や法名軸を通じて**命日や法名**を残し、念仏を称えるきっかけとする。
このように、**「霊魂のための拠り所」**ではなく、あくまで**「教えを反映する道具」**として過去帳や法名軸があるのが、真宗独特の特徴です。
5. 実際の使い方と注意点
過去帳・法名軸を家に迎える場合、以下の点に留意するとスムーズに運用できます。
- 安置場所:お内仏(仏壇)の近く、過去帳台などで簡単に見られる位置に置き、**法要や命日ごとに確認**する。
- 定期的な確認:新たに亡くなった親戚などの法名を追加したり、**命日のミス**がないかチェックする。
- 手入れ:埃を積もらせないよう、定期的に拭き清める。湿気にも注意。
- 寺院との連携:法名が決まるタイミングや、追加・訂正が必要なときは必ず住職に相談。
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まとめ
浄土真宗においては、過去帳や法名軸、あるいは寺院での往生帳といった独特の風習があり、位牌を立てるのではなく法名や命日を記録することで故人が阿弥陀仏によって往生していることを示すスタイルが確立されています。
1. 過去帳:家で管理し、各故人の命日を確認するための帳面。位牌の代わりとして活用。
2. 法名軸:掛軸として法名を掲示し、故人の信仰を可視化する道具。必須ではないが、地域・家柄によって用いられる。
3. 過去帳(往生帳):寺院側で管理する、門徒や故人の往生を登録する帳面。
これらはいずれも、**浄土真宗の「ただ念仏すれば救われる」他力本願の教え**を体感し、**故人とのご縁**を深めるためのアイテムです。日々の生活や命日法要でご活用いただき、**阿弥陀仏の光**をより身近に感じられるようにしてみてください。
参考資料
- 浄土真宗本願寺派(西本願寺)公式サイト
- 真宗大谷派(東本願寺)公式サイト
- 寺院での「過去帳」「法名軸」解説パンフレット
- 本願寺出版社『正信偈のこころ』
これで「過去帳・法名軸など真宗独特の風習」を終了します。