お寺に育った住職の息子・娘のリアルな声

目次

はじめに

お寺に育つ」と聞くと、多くの人は「真面目そう」「厳かな環境で暮らしていそう」といったイメージを抱きがちかもしれません。しかし、実際にお寺で生まれ育った住職の息子・娘の生活は、想像と現実が少し違う部分もあるようです。今回は、ある浄土真宗のお寺の住職の子どもとして育った方々にインタビューし、そのリアルな声をまとめました。子ども時代のエピソードや親子関係、学校での人間関係、そして将来への思い――「お寺育ち」ならではの苦労や喜びが垣間見える話をシェアしたいと思います。


1. お寺で育った子どもの日常とは

1-1. 朝からお勤めが当たり前の光景

Aさん(20代女性)は、浄土真宗のお寺の住職の長女として生まれ育ちました。幼い頃の記憶といえば、「朝、両親と一緒に本堂でお勤めをする」光景が当たり前だったそうです。
「小学生の頃は『どうして毎朝こんなことしなきゃいけないの?』と思ったこともありますが、今考えると、あの静かな雰囲気や“南無阿弥陀仏”という響きが、自分の心を落ち着かせていた気がします」とAさんは振り返ります。
保育園や学校へ行く前に、本堂へ足を運ぶという習慣は、お寺の子どもならではの特殊な日常かもしれませんが、Aさんにとっては「それが普通」だったとのこと。親は強制したわけではなく、「家族として自然にやっていた」感覚が大きかったそうです。

1-2. お寺の行事が“家の行事”でもある

Bくん(10代後半・高校生)の家では、年中行事(報恩講盂蘭盆会など)のたびに、多くの檀家やご門徒が来訪します。それらの行事が自宅(一部は本堂)で行われるため、どうしても落ち着いた生活とは程遠いと感じたこともあるようです。
「報恩講のときなんかは早朝から母が台所で準備をしていて、僕も手伝いをしないといけないんです。でも、その忙しさの中で近所のおじいちゃんやおばあちゃんと顔を合わせたり、住職としての父を改めて見たりするのは、学びにもなるし、にぎやかで嫌いじゃないですね」とBくんは笑顔で語ります。


2. 学校や友人との関係:お寺育ちの葛藤

2-1. 「住職の子」としての視線

お寺に生まれ育った子どもたちは、学校で「坊さんの息子・娘」として見られることが多々あります。Cさん(20代男性)は小中学校時代、「おまえ、将来は坊さんになるんだろ?」と冗談めかしにからかわれることがあったそうです。
「本当にそうなるかはわからなかったし、子ども心に『やめてよ』と思うときもありました。でも、そのおかげで友達にはかえって印象に残りやすかったみたいで、すぐ仲良くなれた面もありますね。面倒な部分もあるけど、アイデンティティとして強いとも言えるかも」とCさんは語ります。

2-2. 反抗期に感じたギャップ

一方で、Dさん(30代女性)は思春期に反抗期が重なり、「家がお寺だからって、真面目にしなきゃいけないの?」という思いが強かったと言います。友人と遊びに行くのを両親に制限されているように感じたり、法要の手伝いを嫌がって「自分の時間がない」と感じたり。
しかし、20代になってアルバイトや社会経験を経る中で、「お寺の行事を大事にする親の姿は、地域とのつながりを守る姿」だったと気づいたそうです。いまでは「むしろ感謝している」と言えるようになり、反抗期の自分を懐かしく振り返っています。


3. 将来を考える:寺を継ぐか、別の道か

3-1. 継承のプレッシャー

お寺の子どもには、「長男は住職を継ぐべき」「家を守らなきゃ」といった周囲の暗黙の期待があるケースがあります。Eさん(20代男性)は、兄が家業を継ぐ予定で、自分は自由に進路を選べると感じながらも、「もし兄が継がないとなったら、自分にお鉢が回ってくるのかも」と不安を感じることがあったそうです。
「僕はIT系の仕事に興味があるし、東京で就職したい。でも親の気持ちを考えると、いずれ帰って来なきゃならないのかな…と悩んだ時期があった。でも今は兄がやる気を見せてくれたので、ちょっと安心してます」と笑顔で語ってくれました。

3-2. 仏教の教えを活かす道

「僧侶にはならなくても、仏教の考え方や在り方を社会で活かしたい」と話す人もいます。Fさん(大学生)は、「お寺で育ったからこそ、他力本願悪人正機縁起などの思想が身についている。これを教育や福祉、海外支援などの分野で役立てたい」と意欲的です。
確かに、他力の視点は「自分だけでなく、周囲との協力を大切にする」という現代社会が求めるチームワーク感に通じ、悪人正機は「弱さを認め合う」姿勢として共感を呼ぶ可能性もあるでしょう。お寺育ちだからこそ得た仏教のエッセンスを多方面で活かす選択肢は増えているように思われます。


4. 苦労と喜び:お寺育ちのリアル

4-1. 苦労:プライバシーや自由の制限

多くの住職の子どもが挙げる苦労の一つに、「家が公的スペース化している」という点があります。参拝者や門徒が常に訪れることが多く、プライバシーが確保しづらい、「夜遅くに緊急でお経を頼まれる」など、家が仕事場と直結しているため、オフの時間や空間が取りにくいという悩みが聞かれました。

4-2. 喜び:人とのつながり、感謝を知る

一方で「人とのつながりが豊富に得られる」「地域や門徒の方々に育てられる」という大きなメリットもあるようです。法要や行事のたびにたくさんの人と顔を合わせることで、世代や立場を超えた交流が当たり前のように存在する。それは普通の家庭では得がたい経験かもしれません。
「私が学校の進路で悩んだとき、門徒のおじいちゃんが励ましてくれたり、地域の方々が応援してくれたり、まるで何十人もの親戚がいるようでした」と語る人もいました。


5. まとめ

お寺に育った住職の息子・娘のリアルな声」を聞いてみると、外から見ると特別な環境のように思えるかもしれませんが、そこには一般家庭と同じような葛藤反抗期進路選択などの悩みがあるのも事実です。ただ一方で、「家が本堂を併設している」「家業が仏教活動そのもの」など、特別な条件が揃っているからこそ、幼い頃から仏教の教えに触れやすいというメリットも大きいと言えます。
彼らが共有していた想いとして、「仏教の精神や念仏が、知らず知らずのうちに自分を支えている」という言葉が印象的でした。お寺育ちゆえの苦労もある一方で、人との繋がりを大切にし、他力本願悪人正機などの考え方を自然に体得しているのは、これからの社会においても大いに活かせる強みではないでしょうか。

【参考文献・おすすめ書籍】

  • 親鸞聖人 著 『教行信証』(各種現代語訳)
  • 歎異抄: 岩波文庫版や各種注釈書
  • 『寺院と家族:住職の子どもたちの実態調査』 (仮題) 各宗派研究資料

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